2018/11/13
不妊症や不育症に対する鍼灸治療は、じねん堂はり灸療院が自律神経症状への鍼灸に並んで注力していることです。
今回は不妊症・不育症に関する弊院の治療成績と治療内容について紹介したいと思います。
■目次 1. じねん堂の治療成績について 2. 不妊鍼灸 3つの基本方針 (1) 自律神経のバランスを整える (2) 局所の血流を改善する (3) 様々な症状を改善・緩和して心身を健やかに保つ 3. 治療の手法 (1) 代表的な手法 (2) 補助的な手法 4. 鍼灸の限界 5. まとめ |
弊院における不妊鍼灸の治療成績について、いくつかのパターンに分けて紹介します(平成30年3月のデータ)。
(1)直近の28例
直近の28例中…
妊娠成立:16例 妊娠不成立:12例 患者一人当たりの妊娠率:57%
(2)1周期以上治療を継続した場合
28例のうち、1周期以上治療を継続した23例で計算すると…
妊娠成立:16例 妊娠不成立:7例 患者一人当たりの妊娠率:70%
※離脱状況
1回で離脱:3名(他院紹介1名。経済的理由1名。無断キャンセル1名。)
2回で離脱:1名(無断キャンセル)
3回で離脱:1名(移植前2回、移植後1回治療。無断キャンセル)
(3)高度生殖医療の段階
体外受精-胚移植(IVF-ET)や顕微授精(ICSI)など高度生殖医療の段階 28例のうち…
12例15移殖 妊娠成立:9例 1移殖あたりの妊娠率: 60%??
(4)妊娠率に対する考察
1周期以上治療を継続した場合の妊娠率は、弊院の現状であれば妥当なラインであると考えています。
しかしながら、1回ないし2回で離脱してしまう患者が存在することは非常に申し訳なく思います。
特に無断キャンセルの場合、患者の希望する治療とこちらが提供した治療に開きがあったことが予想されます。
患者側の期待が大きすぎたり、施術者の手法や説明が悪かったりした結果、不信感を抱かせてしまったのかもしれません。
不信感といえば、私自身の見た目や院内環境が関係している可能性もあります。改善したく思います。
一方、高度生殖医療の段階における妊娠率。これはあまりにも高すぎます。
ちょうどステップアップしたところとか、ステップアップ直前に弊院にかかり始めたとか、タイミング段階で掛り始めて最初の移植で妊娠出来たとか、比較的妊娠しやすい症例に恵まれていた可能性が大きかった…としても、異常に高い数値に思えます。
集計を取った結果なので一応掲載しましたが、この数字はあまり当てにならないとご承知おきください。 今後100例、200例と症例を積み重ねてより正確な数字をお示しできればと思います。
じねん堂はり灸治療院における不妊・不育症に対する鍼灸治療は、以下にお示しする3つの基本方針から成り立っています。
まず重要なのは、自律神経機能を改善することです。
不妊に悩む人の多くは交感神経が優位(交感神経が興奮しやすい状態)になっていることが多く、筋肉や血管の緊張状態が持続してしまっているといえます。
筋肉が硬い、よく眠れない、食欲が無い、動悸がする、などの症状に心当りはありませんか?
これらの症状は交感神経が優位なために起こったり、ひどくなったりします。
また、自律神経には血管の運動をつかさどる働きもあり、交感神経の緊張によって血管が収縮すると、いわゆる「冷え」が引き起こされます。
不妊に関して述べれば、自律神経はホルモン分泌の調整も行っていますので、その働きの乱れは生理周期の乱れや着床障害・不育に繋がることが考えられます。
鍼灸治療等によって自律神経のバランスを整えることで、種々の症状が和らぐと同時に、毛細血管が拡張し、いろいろな部位の血流改善が期待されます。
自律神経のバランスを整えるために弊院では、東洋医学的な観点から行う鍼灸治療(経絡治療)、星状神経節への近赤外線照射を行っています。
次に鍼灸で大切な効果に「局所の血流改善」を挙げることができます。
ここでいう局所とは他でもない、子宮や卵巣のこと。
自律神経のバランスを整えたうえで、骨盤内臓器、子宮動脈、卵巣動脈への神経支配に働きかけ、血流量を増加を図るのです。
これらは一定の手順をふんだ研究によって有効性が証明されています。
鍼灸の手法には色々なものがあります。
自律神経機能の改善には東洋医学的な鍼灸が功を奏しますし、それに伴う血流の改善も期待はできますが、さらなる効果を求めるには、解剖学などの現代医学的な知識に基づいた手法が正しく行われる必要があるのです。
これこそが、 卵胞の発育、卵質の向上、内膜の養生にとても重要なのです!
局所の血流を促すために弊院では、臀部や下肢の経穴(ツボ)への鍼通電療法、骨盤部への鍼刺激、近赤外線照射(スーパーライザー)、徒手療法、場合によっては加圧筋力トレーニングを行っています。
最後に、一般的な症状への鍼灸も重要です。
不妊改善のために通院中の患者様に不妊以外の症状が表出することや、実は通院前から様々な症状に悩まされていたりすることは、決して珍しいものではありません。
肩こり腰痛その他、様々な症状に的確に対応して改善緩和する事により、心身共に健やかな妊活ができるようになります。
不妊鍼灸専門などと謳っている治療医院ではおろそか(あるいは別治療)になりがちなことではありますが、これが非常に重要なのです。
様々な症状を改善・緩和するために弊院では、鍼灸、徒手療法、エクササイズなどの手段を用いています。
じねん堂は治療を目的とした鍼灸を提供する施設ですが、鍼灸だけではどうしてもカバーできない問題や、他の手法を利用した方がより効果的であると認められる場合、鍼灸以外の方法も用いて施術にあたっています。
3つの基本方針の下、主に4つの手法を用いて不妊治療を行っています。
董氏楊氏奇穴
董氏楊氏奇穴は最も古典的な鍼灸術のひとつで、董景晶(1975没)により73名の弟子に伝えられるまで、漢の時代から長きに亘り董家に伝わる一子相伝の奥義とされてきました。
その後、弟子のひとりである楊維傑が中心となって体系付けがなされ、現在、理論のシンプルさと効果発現の速さ・確実性により、中国・アメリカをはじめ、世界レベルでの広がりを見せています。
治療において患部に鍼を刺さない「遠隔治療」も特徴のひとつであるこの手法を、我々は体系付けの中心となった楊維傑への敬意を込め、「董氏楊氏奇穴」と呼んでいます。
不妊鍼灸領域においてじねん堂では、董氏楊氏奇穴に独自の奇穴(ツボ)を用いて、下腹部の血流改善や自律神経系の機能改善を図っています。
経絡治療
経絡治療とは、東洋医学的な考え方に基づいた鍼灸の手法のひとつで、望診・聞診・問診・切診という東洋医学の4つの診断法を用いて身体全体の状態をとらえ、経穴(ツボ)にはり・灸を施すことによって症状の改善や消退をはかる治療法です。
手足やお腹の皮膚の状態を観察したり触診したり、手首の脉をみたりすることで使用する経穴(ツボ)を決定し、ごく軽い刺激を行います。
刺激に用いる鍼は銀製で極細ものや、刺さらない種類のもの(てい鍼)、お灸も温度の低いものや火を使わないものを用います。「痛くない鍼と熱くないお灸」によって施術がなされることも、大きな特徴のひとつであると言えます。
古典鍼灸本来の治療法の中では“仕上げ”に行う手法といった位置づけですが、後述のスーパーライザーと併用することで、自律神経症状の改善に有効であることが分かっています。
特殊鍼法
特殊鍼法は、科学的な手順をふんだ研究等で効果が証明されている手法です。
解剖学などの現代医学的な知識に基づき、卵巣動脈の血流改善を期待できる陰部神経点への鍼通電療法や、子宮環境を改善する中リョウ穴への鍼刺激などを行っています。
卵巣や子宮の機能に問題があって妊娠の妨げとなっている場合に適応となります。
鍼を体内へ深く刺入したり通電したりすることに対して抵抗のある方もいらっしゃいますし、無理強いもしませんが、年齢の高い方には強くお勧めすることとなります。
物理療法
直線偏光近赤外線治療器(スーパーライザー)
じねん堂は三重県下の鍼灸院では初めて、最新の直線偏光近赤外線治療器であるスーパーライザーPXを導入しました(東京医研調べ)。
スーパーライザーPXは高出力のパルス照射(細かい時間間隔で点滅をくり返すこと)により、従来の製品よりも深い部位へのアプローチが可能となっており、さらに治療時間の短縮も実現しています。
不妊鍼灸の分野におけるスパーライザー療法の目的は、自律神経機能の改善と局所(子宮・卵巣周囲)血流の改善です。
首の部分にある神経のかたまり(星状神経節)に照射することで自律神経機能の改善を、そして腹部や臀部のポイントに照射することで、子宮・卵巣周囲の血流改善を図ります。
スーパーライザーによる温熱療法は、不妊症・不育症に対する施術に無くてはならない物理療法であるといえます。
様々な理由から代表的な手法を行えなかったり、満足な結果を得られないと判断した場合には、補助的な手法で対応しています。
運動療法
脚の付け根を専用のベルトを用いて締めたり緩めたりして、ベルトを巻いた部分より末梢へ血液を溜めたり開放したりすることにより、血流の改善を図ります(加圧筋力トレーニング)。大腿動脈(ふとももの太い血管)のRI(レジスタンスインデックス:血管の抵抗…血液の流れにくさ)が低下することが分かっています。“流れにくさ”が低下するということは、流れやすくなるということですね。
ここで血流が改善されている大腿動脈は、骨盤の中を通っている外腸骨動脈がふとももの部分まできて名を変えたものです。
長野県を流れる千曲川が、県境を越えて新潟県に入ると信濃川と名を変えるように、動脈も同じ流れでありながら場所によって名称が変わるのです。 つまり、脚の付け根部分への操作で血流制限と再灌流を行った結果、大腿動脈のRIが低下して血流が改善することから、“県境”付近の外腸骨動脈の血流も改善していると推察できるということです。
これは、骨盤内の血流が改善することを意味します。
実際、加圧や駆血療法を中心に不妊・不育改善のためのセラピーを行っている施設も存在し、一定の効果を挙げていると聞いています。
しかしながら、この操作によって子宮動脈や卵巣動脈の血流が増加するという確固たる根拠(研究論文等)は無いようです。ですから弊院において、この方法を積極的に進めることはありません。
一方、一般的な運動療法については大抵の場合、積極的にお勧めしています。
適度な運動は生活リズムにメリハリを生みます。これが自律神経機能の正常化に一役買うと考えています。
男性の場合、性ホルモンの分泌増進をねらって、高重量の負荷を用いたウェイトトレーニングや有酸素運動をご案内することもあります。
徒手療法
一般的な症状緩和に必要だと思われる事例に対して、徒手療法を行っています。
弊院はあくまで鍼灸院ですので、徒手療法のみでの不妊治療(いわゆる不妊整体)は致しかねます。
“不妊整体”と呼ばれる手法では、骨盤周囲の筋肉を中心に徒手的な働きかけを行い、骨盤内臓(子宮や卵巣)の血流改善を図ったり、自律神経機能を整えたりします。
骨盤自体に構造的な変形(ゆがみ)が生じて不妊に陥っているわけではなく、骨盤内を通過する筋肉の過緊張によって子宮や卵巣の血流が阻害されたり、骨盤周囲の筋肉の不均等な緊張によって身体に対する骨盤の相対的な位置が変化し(歪み・捻じれ)、これにともなう不良姿勢の継続から自律神経機能が失調したりすることによって不妊を招いてしまうという考えからです。
逆に申せば、自律神経機能の失調状態にあっても骨盤の見た目の傾きにそれほど変化がない場合にはあまり効果を期待できません。
局所(子宮・卵巣周囲)の血流改善という観点からも同様です。これは巷の不妊整体全般にも当てはまることです。
じねん堂は骨盤の歪みが不妊の原因とは考えていないどころか、骨盤は(よっぽどのことがないかぎり)歪まないというスタンスです。また、効果の面で整体が鍼灸に勝る部分はほとんど認められないと考えています。
鍼灸に限らず療術全般による施術では、機能的な異常はある程度改善できても、器質的な変化を改善することはできません。
器質的な変化とは、女性であれば、卵管が詰まっている・卵管の動きが障害されている・子宮に奇形がある・卵子の殻(タンパク質で出来た膜)が厚すぎるなど。
男性の場合は、精管が詰まっている・精管が無い・精巣静脈瘤などです。
また、医学的には“機能障害”とされているものの中にも、鍼灸よりも医行為による介入を行った方が良いと考えられているものが幾つかあります。
男性側のEDが不妊の原因であるのなら、鍼灸治療をして自然妊娠を目指すよりも、人工授精をした方がスムーズかもしれません。
ここで気を付けていただきたいのは、タイミング段階で、卵子がしっかり育ち、排卵もし、子宮内膜も厚くなるという方。
ステップアップしなくても、ずっとタイミングを取っていれば大丈夫だろうとはお考えにならないのが賢明です。
実際、“卵子や精子の質は病院でのステップアップ治療では改善されないと聞いたから”という理由で、鍼灸治療を選択されるカップルもいらっしゃいます。
しかしながら、もしも先述の“卵子の殻”の問題があった場合、鍼灸治療をいくら続けたところで妊娠に至ることはありません。選択肢は体外受精のみです。
病院におけるステップアップ治療には、確かに高額なものもあります。と同時に、必要な方が必要な手段で治療を受けることができる、非常に理にかなった方法でもあるのです。
じねん堂鍼灸療院では、病院での治療と鍼灸治療との併用をお勧めしています。
じねん堂の不妊鍼灸ができるのは…
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自律神経の働きを調整すること
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局所の血流を改善すること
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腰痛・肩こりその他の症状に対してアプローチすること
その結果…
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卵子や精子の質の向上を期待できます
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子宮内膜の養生ができます
ただし…
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器質的変化を改善することはできない
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病院での不妊治療との併用がお勧め
となります。
そしてじねん堂は…
不妊・不育の病態と真摯に向き合い・学び、鍼灸師として可能な限りのお手伝いをさせていただきます
最後までお読みいただきありがとうございました。
不妊改善に鍼灸治療をご検討中であれば、ぜひじねん堂の不妊鍼灸をご利用ください。 ご予約は電話かウェブにて承ります。
注記1:
宗教・信条上の理由で自然妊娠(タイミング療法)にこだわるという方に対して、病院での不妊治療やステップアップを無理強いしたり、それを理由に施術をお断りしたりすることはありません。弊院の施術理念をご理解いただいた上で、ご相談ください。
注記2:
弊院は「自宅兼治療院」であり、住居と店舗の玄関を共有しております。時間帯によっては家のものの出入りがあったり、子供の声を含む生活音が大きく聞こえる場合がございます。子供の声が苦手な方、あるいは逆に生活音が聞こえないと不安になる方はご相談ください。予約時間等、最大限配慮いたします。